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13-4日野洋一

株式会社 鉄人化計画 代表取締役社長 日野洋一氏 最終回「実生活からの解放」


日本から生まれた余暇分化として海外にも広く受け入れられているカラオケボックス。
競合も多く繁華街でも激戦が繰り広げられる業界で、首都圏を中心にその一風変わったネーミングと独自性のある経営戦略で堅実な成長を遂げている「カラオケの鉄人」をはじめまんが喫茶やダーツ・ビリヤードやカフェなど多角的な店舗展開でなんと創業4年目にして平成16年東証マザーズへ上場を果たした株式会社鉄人化計画。「人間が人間であるために不可欠な『遊び』の本質を掘り下げ、創造し、提供することで社会に貢献していきたい」という同社代表の日野洋一氏にその経営理念を語ってもらった。

株式会社 鉄人化計画 代表取締役社長 日野洋一氏

最終回「実生活からの解放」
店舗運営において人がロボット化してしまっていることに危惧を抱いたという日野は、オランダの歴史家ホイジンガの唱えた「ホモルーデンス(遊ぶ人)」が文化を形成するという教えに影響を受け、旧来の日本における遊びの価値観そのものを解放してしまおうといった壮大なビジョンのもと鉄人化計画を創業した。遊びの価値を追求していく過程で「人とは何か」という人間の本質的な意義にまで考えを深めていったのだと語る。そこまで考え抜いた自らのチームにおいての理念も明確なものをもっていた。

「さまざまな企業のコンサルテーションをさせて頂く機会がありますが、実際に現場でアンケートをとったりすると、企業理念が社員に浸透していない会社が多いことに驚きます。企業理念とはお客様が書かれた文字ではなく本当にそれを浸透させて感じることができるかということであり、それは私たちの事業でいうといかに実生活から解放させることができるか、ということだと思います。
例えばディズニーランドなどはお客様にその実生活からの解放をさせることに徹底しています。私たちの店でも、ぞうきん一つ、納品物一つが店の前においてあるだけでお客様は実生活を思い出してしまう。そういったところから私たちはいかに実生活から
お客様を解放してあげられるか、というところに気を配っています。」

「遊び」を追求し、顧客を実生活から解放させること。それは企業理念の中の同社の使命~missionとして挙げられている。日野の「遊び」に対する並々ならぬ思いを感じる。
さらに日野はその「遊び」を研究するために、フランスの社会学者ロジェ・カイヨワの著書「遊びと人間」の分析結果を紐解くに至った。ロジェ・カイヨワは前述の「ホモ・ルーデンス」という概念を打ち出したホイジンガに影響を受けて「遊びと人間」を記したそうだが、現代の遊びに対する切り口が興味深い。

「カイヨワの分析では遊びは4つのジャンルに分類されます。
1つ目はアゴン(競争)。これはスポーツ全般、格闘技、ダーツやビリヤード、麻雀などがこれにあたりますね。
2つ目はアレアとよばれ、(運)の要素が強いもの。じゃんけんやギャンブル、麻雀はこの要素も持ち合わせていますね。
3つ目はミミクリ(模擬)、ものまねや仮装、映画がこれにあたります。弊社の事業であるカラオケ、まんが喫茶、コスプレなどもすべてこのジャンルに入るものですが、このジャンルの特徴として『感情移入によるおきかわり』が体験できるということがあります。
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つ目はイリンクス(めまい)と呼ばれるもので、ジェットコースターやブランコ、スキーなどがこれにあたります。すべてのジャンルに共通しているのが、何故だかわからないけれど人間にとっては『楽しい』という点ですね。」

ここまで「遊び」を徹底的に追及し考え抜き、そして分析した経営者に私は今まで会ったことがなかった。では逆にその概念を同社の事業に日野はどういったかたちで具現化しているのか。

「弊社では遊びをかたちにする為の実質的な研究開発費を年間で1億円以上投資しています。例えば歌った曲の歌詞を印刷できるシステムがあり、自分の『マイ歌本』を作ることができます。これは全国1万店あるカラオケ店の中でも同社ならではのサービスです。また、弊社の会員システムには、歌の『採点』に応じて、同じ部屋で歌っている全員にポイントが付くというコンテンツがあります。ちなみに弊社の採点は完璧な接待採点ですから(笑)。」

追求した考えを事業として具現化することに対しても日野の手法は徹底している。カラオケというツールが出現した際にここまでの規模を想像できたのだろうか。

「これまでこの業界は本質的な価値で差別化されていなかったのですがLinuxの出現で差別化することに成功したのです。今後にむけて弊社でもさらに差別化し、同社の価値を高めていきたいと考えています。そして最終的にはカラオケのように日本で生まれた文化をもって世界の中における日本人の主役化を実現していきたいと考えています。」

一つ一つの言葉が説得力をもって伝わるのは、徹底的な分析をもって大きなビジョンを描いているからであろう。これから同社が仕掛ける新しい「遊び」に当分目が離せそうにない。

(了)

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