日本から生まれた余暇分化として海外にも広く受け入れられているカラオケボックス。
競合も多く繁華街でも激戦が繰り広げられる業界で、首都圏を中心にその一風変わったネーミングと独自性のある経営戦略で堅実な成長を遂げている「カラオケの鉄人」をはじめまんが喫茶やダーツ・ビリヤードやカフェなど多角的な店舗展開でなんと創業4年目にして平成16年東証マザーズへ上場を果たした株式会社鉄人化計画。「人間が人間であるために不可欠な『遊び』の本質を掘り下げ、創造し、提供することで社会に貢献していきたい」という同社代表の日野洋一氏にその経営理念を語ってもらった。
第3回「ホモサピエンス・ホモファーブル・ホモルーデンス」
鉄人化計画代表の日野が、最初に事業としてトライしたのは「歌を歌いたい人のため」のカラオケだった。他の要素は優先順位を下げながら、カラオケ好きな人が最も重要視する楽曲数に注力した結果大成功を収めるわけだが、日野のビジョンはカラオケだけにとどまるものではなかった。
現在鉄人化計画は「カラオケの鉄人」をはじめ、まんが喫茶、ダーツ・ビリヤード事業のほか、携帯コンテンツ配信システムなど多岐にわたる領域に進出し、個性あふれる事業展開をしている。
同社の事業ドメインである「遊び」に関して日野はどのようなポリシーをもっているのだろうか。
「辞書で『遊び』という言葉を引いてみると、古語では『心身を実生活から解放し、熱中・陶酔すること』とあり、また現代では『実生活に対して有意義な働きをしていないこと』とあります。もともとはある精神の状態を表す言葉が、現代では社会の役に立っていない、という意味で定義されています。
ただそのような認識で『遊び』を捉えると、社会に生業を通じて貢献するのが近代企業の存在理由ですから、それを事業ドメインとしている企業は身もふたもないわけです(笑)。
そこで私は、日本における遊びの価値観そのものを解放してしまおう、ということを企業理念にあげました。
日本が発展していく中で、遊びというものの価値観が社会的意義のないものであるという捉え方は、明治以降の殖産興業による国家的な方針のもと発展を目指していくなかで仕方のないことであり、以前であれば遊びを仕事にするなどということは常識的に考えられない社会的状況だったということは理解していますが、逆にいえば日本はそのためにいつまでたっても『モノの欲求、豊かさが最も大切であるという価値観から解放されない』国になってしまう、そんな危惧感を感じます。
だからこそ当社はその価値観を解放するということを企業理念にあげているのですね。
そのような企業理念を掲げる上で、一般的に豊かさという表面的なものの底流にある普遍的なものはなにか、また企業として社会的な意義とは何か、ということを考えざるを得ませんでした。そこで遊びというものの意味をさらに深く掘り下げて追及していくと、人間の本質的な規定というものについて考えざるを得なくなりました。」
カラオケをはじめとする「遊び」の事業化において、日野は「人間とはそもそも何か」といった深い部分へと目を向けざるを得なかったと語る。
旧来の社会的な通念や価値観が目まぐるしく変わる現代社会において、日野が求めたものはあくまでもそのもの自体の本質的な意義や価値を追求するといった手法だった。
同社の設立に至るまでの経緯を聞いていると、経営者としてだけではなく、日野洋一という一人の人間の生き方や考え方といったものが垣間見えてきた。
「人間はホモサピエンス(知識の人)という呼称で呼ばれるのは皆さんよくご存じかと思いますが、それは人間の祖先である類人猿と比較して脳の大きさが異なるところから定義されているわけです。
また人間は『ホモファーブル(働く人)』という別の呼称もあります。直訳すると『工作する人』ですが、自然界にあるものに自ら能動的に働きかけ、都合の良いものに作り変えるという定義で、これが他の動物と人間の」違いである、というものです。
スタンリー・キューブリック監督の「2001年宇宙の旅」の冒頭で、猿が骨をもってそれを道具として使うことに気づいたあと、その骨を空に向かって投げると、その骨が宇宙船に一転するシーンがありますが、あれがまさに『ホモファーブル』を象徴的に表していると思います。
一般的に働くという言葉は、鞭で叩かれて石を運ぶ、というようなイメージで捉えられがちですが、弊社において働くということはまさにこのホモファーブルの定義に則して、自らが能動的に働きかけて作り変えていくことだと捉え、それを人事理念にも入れているのです。
チェーン展開を行っている店舗営業事業などは実際に人材がロボットになってしまっているところが多々あるわけです。それはどうなんだろうかと思うわけですね。その為に弊社においては常に何ごとにも能動的に働きかけ、良い方向へ変えていく、そういった人材になってほしいという願いですね。
さらに1938年オランダの歴史家ホイジンガが定義した人間の定義として『ホモルーデンス(遊ぶ人)』というものがあります。これには人間が人間たるゆえんとは、遊び心があるということ、また文化の根源という原点は『遊び』にある、という考え方なのですね。文化が成熟する上で必要なのは、遊びを楽しむことなのだということなのです。」
遊びを事業の本質的なドメインに設定するために、人の本質的な意義を考え抜く。
日野の事業家としてのスタンスが理解できるエピソードである。
次回の最終回はさらにその遊びについての日野の考え、また同社のこれからについて語ってもらおう。
(最終回に続く)