本から生まれた余暇分化として海外にも広く受け入れられているカラオケボックス。
競合も多く繁華街でも激戦が繰り広げられる業界で、首都圏を中心にその一風変わったネーミングと独自性のある経営戦略で堅実な成長を遂げている「カラオケの鉄人」をはじめまんが喫茶やダーツ・ビリヤードやカフェなど多角的な店舗展開でなんと創業4年目にして平成16年東証マザーズへ上場を果たした株式会社鉄人化計画。「人間が人間であるために不可欠な『遊び』の本質を掘り下げ、創造し、提供することで社会に貢献していきたい」という同社代表の日野洋一氏にその経営理念を語ってもらった。
第2回「2割を押さえるマーケティングとは」
事業ドメインの本質的価値で勝負をすることを目指したい、そのようなコンセプトのもと日野は「鉄人化計画」を設立した。
当時すでに飽和市場化していたカラオケ業界において、カラオケ事業というドメインの本質的価値は「歌を歌いたい人のためにある」という結論に達した結果、接客や内装より楽曲数の多さで勝負することに舵を切り、当時は画期的だったLinuxによる複数の配信事業者をまとめるシステムを導入し、急成長を遂げ、設立から4年半でマザーズ上場を果たす。
前回でも触れたが、今回も引き続きカラオケ事業に対する日野のとった戦略を追ってみたい。
「カラオケはレンタルVIDEOと形態が似ているところがあります。当時は1店舗あたりの本数は10,000本、現在は10万本という規模になっているのです。ではそこまでの規模で展開しなければならない理由とは何か?と考えてみると、顧客のニーズが多様化しているところが最も大きな理由です。
ある作品のファンは自分の好む1本があるかないかで店の選択基準を決めるようになってきたわけです。その傾向を把握していたのか、当時TSUTAYAさんが中古のビデオを積極的に買い取って集めていましたね。私はコンテンツビジネスにおいての優位性は多種多様、数の勝負だと思っています。このビジネスにおいて質は量に比例する、というのが私の結論です。
また、楽曲配信事業のハードも8トラックからCD/LD、その後に通信というように変化してきましたが、ハードが変わると今までの勝者が敗者になったり、新規の参入者がトップシェアとなったりと、ビジネスのプレイヤーシェアが大きく変わってきました。しかし、消費者の視点からはハードの変化というものは、それ自体あまり意味がありません。何に変化を感じたか、それは実はコンテンツの量だったのです。
昔の8トラックは、ご存知の方もいらっしゃるでしょうが、スナックなどで使われていたものです。
機器も大きいし、一般的には流通していなかったのですが、LD(レーザーディスク)をパイオニアが開発し、8000曲のレパートリーができたことで、カラオケの一大ブームを巻き起こすきっかけになりましたね。
その次は通信で1万曲が出た際に、私は10万曲という曲数にかけたわけです。
現在で弊社で配信している曲数は47万曲ありますが、カラオケの鉄人に来てくれるお客様の中には「アニメソングのオフ会」や「ミュージカルソングのオフ会」などの指名を頂きます。やはり曲数がある中で「カラオケの鉄人」だからあるというようにお客様が認知してくれているのですね。」
質より量、ハードの変化によるプレイヤーの変化。
現在の低成長・停滞化の時代においてその戦略とマーケティング手法はこれからも通用するのだろうか。
ニッチファンを数で取り込むことに成功した日野は次の戦略をどう考えているのだろうか。
「これからは『プチマニアターゲット』を狙っていこうと考えています。彼らは嗜好性がはっきりしていて、既に自分の歌う歌を10曲くらい決めているのですね。そしてライトユーザー層。マーケット全体が落ちている中で、カラオケの参加人口のうちの2割が、歌うことが好きで楽曲数の豊富さから、リピーターとして次回もカラオケの鉄人を選んでくれる、というデータが出ています。この2割は景気に左右されずに来店してくれるのです。残りの8割はお店を選んでこない人たちなので、今はそのような好きな人しか来ない状況でいかに『ファン』を取り込んでいくかが重要だと思っています。」
時代の流れに即したマーケティング手法を取り入れていくといった、色あせるほど使い古された言葉であるが、実際にそれを見据え、実践している企業がどれだけあるのだろうか。
またその実践には、データを冷静に分析しかつ大胆に仕掛けるための戦略立てが重要なのであろう。
次回は、遊びというものを事業ドメインに据えた日野の、その概念に対する彼なりの持論を展開してもらおうと思う。
(次回に続く)