特徴のあるフォルムとその履きやすさが短期間に口コミで爆発的に広まり、いまや毎夏ごとにいたるところでその姿を見ない日はないほどの人気商品となったクロックス。一時はエスカレーターでの事故で報道された時期もあったが、現在でも人気商品として定着している。今回はその日本代表 藤田守哉氏の遍歴をたどってみたい。
Crocs asia pte.ltd 日本代表 藤田守哉氏 最終回「ミッション、危機管理、そして人材 クロックスのこれから」
「Mission&CCC 」をコンセプトにし、約数年の間に約10 倍もの売上を記録しながら拡大してきた組織を束ねてきた藤田。各業務のプロを積極的に採用し、激変する環境に対応してきた。その経験や考えについて次代の会の参加者から興味深い質問が飛ぶ。最終回ではその質問に対する藤田の答えから、彼の考えをさらに検証してみようと思う。
Q1. 「興味深いお話をありがとうございました。先ほどのお話の中で「Mission & CCC」というお話がありましたが、それは『内向きのコーポレートブランドの構築』だと私は感じたのですが、数百名の社員を束ねる中で、実質的にそれを浸透させるために藤田さんが気をつけていること、その具体的な手法に関してご教示頂きたいのですが」
A2. 「正直なところここ数年は売上の急増に伴い、それに対応するのが精一杯でした。その後いろいろな分野のエキスパートが集まってくる中で、事あるごとに『うちの会社のミッションは何ですか』『うちの会社はどこにいくのですか』というような質問をよく受けました。お恥ずかしい話ですが、ようやく最近そのミッションが固まってきました。ミッションとは年毎に決めるというようなものではなく、中長期的にどこに向かうか、それを端的に伝えられる言葉が必要になります。
もちろん各々ブランドに対するイメージは異なっているものを一つのものに纏め上げる過程で、さまざまな議論を重ねていくわけですが、一旦決まったらそれには従うことを心がけていくように話しています。その議論はあくまでも「Constructive Confertation つまり建設的なぶつかりあい」でなくてはならず、そのぶつかり合いで決まったことに関しては従う、そういった企業文化を育成していきたいと考えています。」
いろいろな経歴をもつプロフェッショナルの集まりにおいて、短く分かりやすいミッションを建設的なぶつかり合い、議論をもって決定し、決まった以上はそれに従う。シンプルであり、かつ分かりやすいミッションを定めることは、急成長する同社をまとめていく上で必要不可欠なことなのだと理解できる。次に同社が広く知られるきっかけとなった例の事件に対する危機管理について質問が出された。
Q2 「事故が起こった際のリスクマネジメントをどのように行ったのか、どのようなことを心がけたのか、具体的にお話いただけますか?」
A2 「あの事故での私の教訓としては『ブレない』ということが挙げられると思います。当時経産省からいわれた『注意喚起』『改良した製品を開発する』というのがあり、これには対応してきました。ただ問題の商品について『これは自主回収されるのですか?』という問いもありました。解釈の仕方によっては『自主回収しなさい』ともとれるのですが、私どもの決めたスタンスは『自主回収をしない』というものでした。その理由として同社の製品を安全に履いていれば事故は起こらない、という実験の結果、改良した製品を出したのですが、それもあくまで以前の商品との選択肢を増やしたという考えに基づくものでした。
その話を経産省の方にお話したところ『 それであればその方針を貫いたほうが良いと思いますよ。そこを確認したかったのです。 』という返事でした。そこがブレてしまうとマスコミは必ずそこを突っ込んでくるということなのですね。もし本当に落ち度があるのなら自主回収しなければならないわけですが、そうでない場合は決めた方針に対してブレない、これが重要だということを経験から学びました。」
最後に出された質問は「人材」に関してのものだった。異業種からのエキスパートを集めた同社の人材に対する考えを聞くことができた。
Q3 「急激な人材の投入に対してその後どのようにメンバーを育てていくのか、具体的に聞かせてください。」
A3 「心がけていたのがその時点での「Over Qualified 」の人材を採用するということですね。30 億の時点で30 億のオペレーション経験者を呼んでも意味がない、そこで目指しているのが200 億なら200 億のオペレーションを経験した人間を採用する、というように成長するスピードと目標から逆算して人材を採用していました。正直なところ今までの忙しさの中教育をしている暇がなかったのが事実ですが、とにかく『その経験をとにかく皆とのOJT の中で共有し、下に落としてほしい』ということを伝えました。そのような状況を経て、ようやく落ち着いてきた現在、立ち止まって人材のパフォーマンスについて、またそれぞれのポジションが適切かどうか、ということを検証している、そのような段階ですね。」
急成長する中でのビジネスオペレーションを行いながらもブレない危機管理対策で危機を脱し、これからアジア市場の拡大に向けて今一度チーム全体のパフォーマンスを検証しているという藤田の目には、同社の実現すべきゴールに向けてのチャートが明らかに見えているのだろう。
この夏もあのサンダルの姿が町で、海で見られることになるだろう。更に大きな目標を見据えて進む同社の活躍を期待したい。
(了)