楽天株式会社 取締役 常務執行役員 安武弘晃氏 第2回「尊敬される会社」(全4回)

店舗数25,000店舗、会員数5000万人。インターネットの通販事業において日本で最大級の売上を誇る楽天株式会社。2000年に上場し、野村克也監督率いるプロ野球球団をはじめ銀行事業、証券・クレジット事業、旅行事業、ポータルコンテンツ事業などを多角的に運営し、1年間に1兆円もの金額が流通するインターネットコマースプラットフォームを構築している。
ネット時代の到来に彗星のごとく表れ、瞬く間に時代の雄として駆け上がった同社の軌跡を、創業時からのコアメンバーとして支えてきた安武弘晃氏に語ってもらおうと思う。


楽天株式会社 取締役 常務執行役員 安武弘晃氏

「第2回 尊敬される会社」
「軽い気持ち」から学生アルバイトとして楽天のメンバーの創業期に偶然立ち会い、卒業後大企業に就職しながらもその1年後には可能性を信じて楽天に入社した安武は、常識ではあり得ないようなスピードで成長する楽天を目の当たりにした。しかしその創業期は予想以上にタフなものだったようだ。


『楽天を最初の立ち上がりは、三木谷社長と創業の3人で出店店舗を見つけに全国を駆け巡り、ようやく集まったのがたったの13店舗。営業もシステム開発もすべての人員が足りず、事業を拡大するうえでメンバーを募らなければならないのが本当に大変でした。
知り合いに遊びに来ないかと声をかけ、そのまま食事をし、そのまま就職させるというようなイメージでした。友人はもちろん、大学のつてなど多方面の知り合いに声をかけていきました。

またある日Web上のお客様窓口から慶應SFCの学生が入社したいと問い合わせしてきました。「何かの間違いだろう、相手にするな」と三木谷社長はいったのですが(笑)たまたま面接にきたときに社長が直接会ってみたらとてもいい男で、そのまま入社したというケースがありました。それが楽天を数年勤め上げた後独立して「4travel」(国内最大級の口コミ旅行情報サイト)というサイトを立ち上げました。

さらに「おもしろそうなベンチャーがある」と証券会社の飛び込み営業の方が売り込みにきたのですが、その人がそのまま社員になってしまった例もあります。結果的にその方は営業のトップとしてずっと頑張ってくれました。』

前回の話にも驚いたが、次々と飛び出るエピソードはさらにマンガのようなものばかり。しかし現に存在する楽天は世界的な企業である。何がそこまで人を惹きつけたのだろうか。

『やはりその当時から三木谷はビジョンを明確に掲げて語っていました。創業して3年で株式公開し、日本一、世界一を目指したいと。ベンチャーとはいえ、草ベンチャーでは終わらない。そのため創業から目標達成に関しては非常に厳しく今もその精神は受け継がれています。
しかし最も大きかったのはIPOしたいでも単なる金儲けをしたいでもなく「人に尊敬される会社になりたい」という想いだったと思います。』

「人から尊敬される会社になりたい」
その想いが楽天をここまでの大企業に仕立て上げた三木谷社長の最大のビジョンだったという。

『そんな創業期のエピソードで印象深いものとしてトイレの電気消し忘れに社長が物凄く怒ったことがあります。トイレの電気代はおそらくビルの管理費に含まれているものだと思いますが、社長いわくその1円にも満たない気の緩みが会社の経営を揺るがすということで厳しく言われました。
しかし思い返すと、まさに今日も会議で1000万くらいの案件に関して話していて、つい1万円くらいの単位を軽く考えてしまう甘い感覚になってしまいがちな自分に気がついて、少しでも無駄なお金を社外に出さないようにして最大の効果を上げるにはどうするか、1円でも多く利益を残す為の創意工夫をすることを忘れているな、と反省しました。』

徹底して社員が自分を律し、利益を追求する為に自らの創意工夫に努力する。
頭では理解できても行動に移すのは容易ではない。創業期の楽天にはそのように自らがすべてをやるという風潮が根付いていたようだ。

『当時大手百貨店のネットモールを立ち上げて、システムは楽天のものを使うという契約をしましたが、契約するといっても握手だけで、その他は何も分からない社会人2年目の私がどう進めていいかわかっておらず、社内で聞くと「契約書のひな型などはないよ。自分で考えて」といわれ、本屋に行き商法の本を購入し、契約書をゼロから自分で作ったこともありました。
その他にも社内LANの配線をケーブル作成から自分でやったり、社内の植木に水をやったり、みんなの寝袋を干したりと(笑)。そんなふうに「できるものはすべて自分でやる」創業期だったわけです。』

このように数名の社員全員で楽天の創業期を支えてきた約2年後、会社は急成長を見せるフェーズへと変革しはじめる。次回は異常ともいえるスピードで加速し始めた同社の拡大期に迫ってみたい。

(次回へ続く)

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