アイティメディア株式会社 代表取締役会長 藤村厚夫 最終回 「自らを活かす」(全4回)

「IT分野を中核に、コンシューマー、技術者、企業向けなどの多種多彩なメディアを擁し、インターネット専業メディアとしてオンリーワンのものを提供する。」をキーワードに、IT総合情報ポータル「ITmedia」ほか20ほどのメディアを運営、2007年4月にマザーズへ上場した後、IT業界の最新情報を伝えるメディアとして、トップランナーとして走り続けているアイティメディア株式会社。今回はその創立者である藤村厚夫の素顔に迫ってみたい。

アイティメディア株式会社 代表取締役会長 藤村厚夫氏

「最終回 自らを活かす」

アイティメディアを業界内で確固たる地位を占めるメディアに成長させることに成功した藤村は、自身の経営者としての評価に関しても明確な指針をひいている。どのように自らを評しているのか、彼の言葉から探ってみたい。

『自分の評価としての報酬をどうするのか。当時もそうでしたが、今でも悩みます。ご自分の会社をもたれている方は多かれ少なかれこのことに関する悩みがあるのではないでしょうか。
創業時のボードメンバーの何名もが外部のベンチャーキャピタル担当者で構成されていましたので、ガバナンスの部分においては割とすっきりしていた部分もありますが、会社が順調にいっているときも、もちろん赤字のときにも、これを決めるのが非常に難しいなと感じました。その経験から、何をもって経営者の資質を測るかということを考えたときに「自分の報酬をどう決めているか」ということはとても大事だなと思っています。
自分の報酬に対して積極的な主張ができないというあたりは非常に日本的なメンタリティだなと思っていたのですが、アメリカでも金融収縮が起きてベンチャーキャピタルも非常にシビアになっている中、ベンチャーへの投資では有名なキャピタリストが、投資の可否を評価する最も端的な点として「スタートアップの成功の可能性はCEOの給料に反比例」といったコメントを読んで「アメリカでも同じなんだな」というように思いました。経営者を評価する指標が一つしかない場合ここは非常に重要な点だと思います。』

自らの起業した会社で自らの報酬をどのように設定するか。
経営者として、また起業者として永遠のテーマともいえる課題に対して藤村は今もフランクには話せないという。そこにはやはり自らの信じた信念に基づいた経営理念に誠実であるがためであろう。

『私は創業者でしたが、ボードメンバーに対して退任したいと伝えたことが非公式ですが2度あります。

一度目は「いつになったら黒字になるんだ」という議論が続いていた時期です。私は、当初2年は赤字でも良いという事業計画を描きファイナンスもしました。しかし、2000年を過ぎてITバブルがはじけたことにより、周囲は黒字化を焦る雰囲気に変わっていました。その頃黒字へと転換する経営者としての能力に自信がもてなくなったのです。
二度目は逆に利益が出て黒字になった2003年ごろ、自らの描いたプランも実現し、次を伸ばさねばならないというフェーズになった頃です。黒字にする責任は果たした。しかし、それ以上を目指すのであれば他に人材がいるのではないかと言う提案をしたことがあります。
結果的には二度とも実現しませんでしたが、思い返してみると赤字であっても黒字であってもそこには市場の中で存在感を醸成していくうえで最高責任者としての役割を果たせないという状態だったという反省が残りました。

その反省も含め、自らのオーナーシップという小さいところにこだわっていることでは会社を大きくすることはできないと判断し、その後は積極的にパートナーを探すようになりました。会社には次を目指さなくてはならないステップがあるのです。2004年には順調な売上になり、徐々に社会に認められる存在になっていく過程で、今こそ合併やM&Aの可能性があると思ったのでした。
そのフェーズに至った際には自分の中にあったものを振り切って大きな転機に立ち向かう上で、いかに自分がポジティブにいられるかが非常に重要なことだと思います。
その為に経営者として自らの力をとにかく活かすことを考えるようになりました。』

会社が大きく成長していく中で自らのさまざまな思いを振り切り「自分の力・自分の役割」をどこまで活かすために藤村は何を心がけているのだろうか。

『まずとにかく冷静でなければならないということ。そして自分が考えていることを人に説明できる力。そして自分の力を活かすと考えたときに、それを出し続けることができる環境作りというのが結構重要だと思います。私は50代ですので、ともするともうすぐ定年、というようなモードに巻き込まれるときがあります。
そのサイクルの中に入ってしまうといろんな意味でパワーが出せなくなってしまうわけです。
この3つを常に自分に問いかけ、決断・意思決定をしていくことができるように心がけています。
また、自分の時間を貪欲に作ることや、健康に気をつけて、ポジティブな時間を持続させることを心がけて、一日の終わりにはそれを反芻してどれくらい自分の力を使えたかを考えるようにしています。』

ポジティブな時間を持続させることに注力し、どこまで自分の力を発揮できたか。日々それを反芻しながら進んできた藤村が最後にこの次代の会に寄せてくれた言葉を綴っておきたい。

『会社を興してここまでやってきました。その過程には苦しいこともあり、楽しいこともありました。しかし今改めてまさにこの会の主旨である「次代」に向けて自分の力を鍛える、それが自分自身にとってとても重要なことだと考えていて、そんなタイミングでこのお声がけを頂いたのも何かのご縁かと思います。』

ビジョンと意地で成功を収めた藤村は、これまで以上に次の時代「次代」を見据えて自らを高めることに貪欲である。他の業界が収縮していくなか、絶えず増殖・発展を続けるインターネットメディア業界において、藤村らが率いるアイティメディアが果たす役割はますます大きく膨らんでいくことだろう。

(了)

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