アイティメディア株式会社 代表取締役会長 藤村厚夫 「第3回 ビジョン 意地 そしてビジネス 」(全4回)

「IT分野を中核に、コンシューマー、技術者、企業向けなどの多種多彩なメディアを擁し、インターネット専業メディアとしてオンリーワンのものを提供する。」をキーワードに、IT総合情報ポータル「ITmedia」ほか20ほどのメディアを運営、2007年4月にマザーズへ上場した後、IT業界の最新情報を伝えるメディアとして、トップランナーとして走り続けているアイティメディア株式会社。今回はその創立者である藤村厚夫の素顔に迫ってみたい。

アイティメディア株式会社 代表取締役会長 藤村厚夫氏

「第3回 ビジョン 意地 そしてビジネス」
98~99年に隆盛を誇ったIT起業ブームのまっさかりの2000年、知人らと株式会社アットマーク・アイティを設立、代表に就任した藤村は、その後に起きたITバブル崩壊の波に翻弄されることになる。毎回の取締役会が「荒れた株主総会のような」状況でも藤村には明確なビジョン、そして意地があったと語る。
藤村をそこまで奮い立たせたものは何だったのか。

『会社の規模や物理的な資産を自慢げに語る会社もたくさんありますが、そういう考えとはとことん戦ってみたくなってしまうたちなんですね(笑)。
私が記者だったころに印象に残った講演を思い出します。HP社(ヒューレッド・パッカード)の元CEOであったルー・プラット氏が語った言葉に「思い返してみてほしい。20世紀初頭には主たる自動車メーカーはそれぞれ工場の周りに鉄道・発電施設をはじめ、シートなどに使う為に羊を飼う牧場まで持っており、それが競争優位の源泉だった」というくだりがあり、聴衆は皆そこで笑うわけです。しかし21世紀の現代でもなお、メディア企業、例えば大手新聞社などでトラックを何台、輪転機を何台、いくつの工場でインクを何十トンも使用している、など規模感を誇らしげに語る記事などが書かれているわけです。

それを見るにつけ「ルー・プラットの語った100年前の状況ならまだしも、この21世紀でそれが何になるのだろう?」ととても不思議に思うわけです。
自分の会社を見返すと、皆さんが今使っているパソコンのほうがよっぽどよく、ネットワーク環境なども社員の自宅のほうがよいくらいです。オフィスも狭い。そう考えると「規模や設備じゃない、人なんじゃないか」と信じたいのです。』

藤村の中には早くからIT時代の到来に向けたメディアのあり方が「人」によるものだという思いがあり、それが苦しい中でも明確なビジョン、そして意地として培われていった。


参加者とのやりとりも非常にきさくな藤村氏
『何も大きなメディアを否定したいわけではないのです。多くの人に対して記事を読んでもらうことが価値という考えに立てば大きな輪転機も必要だし、それを瞬時に届けるトラックも必要になるでしょう。
しかし逆の問いをした際に、数は少ないけれど本当に読みたい人がいる情報を届けられるメディアが存在しているか。また、それが事業になっているか。そのようなところに本質的な答えを見出したいと思っていて、それを考えるとインターネットを使ったメディアを作り出していくということが正解なのではないかな、と思ったわけです。
その考えに対して賛同してくれる人もたくさんいましたし、これは間違いなくうまくいくだろう、と思っていたのですが、やはりビジネスとは難しいと思い知らされましたね。』

藤村の目指したビジョン、そして意地はインターネットを介して「必要とされる情報を必要とする人に届ける」というインターネットメディア事業として結実しているといえるだろう。しかし前回でも触れたようになぜ順調ではなく「荒れた株主総会」のような試練を体験しなくてはならなかったのか。ここがビジネスとしての難しさであり、藤村が社会に対して経営者として本当の意味で乗り越えなければならない「壁」だった。

『それはかっこいいね、ビジョンだね、21世紀的だね、といってくれていたような人はたくさんいましたが、いざ私がビジネスとして始めるとなったときは手のひらを返したように反応が変わりました。当時は本当に悩み、裏切られたと思ったのですが、後から考えてみると、彼らは「それで本当にいったことを実現できるのかどうか」を知ろうとしている、うまくいくのかどうかを証明させようとしていたんですね。賛同してくれた人は自らの人生を賭ける価値があるか、本当の意味で判断をしていたのだと思います。
そこで自分のビジョンが間違っていたと事業を止めてしまったり、モデルを変えたり、売却してしまったベンチャーを数知れず見てきたことがスローモーションのように思い出せます。
今思えばその頃経営に関して自分の言っていたことの甘さなどを痛感しますが、3年はとにかくしがみついていこうと思いました。経営者が必死にビジネスを考えた場合、間違っていることなどはあまりないんですね。つまり大事なのは正しいとか正しくないとかではなく、それが実現するまでに耐えられる時間、それを腹の中に据えられるか、我慢できるかどうかが重要なのだということを学びました。』

ビジョンと意地を支えに「しがみつき」ビジネスとしての成功の道筋を作ってきた藤村。
次回最終回はその成功に対する自らへの評価に対する考えと、苦しい時を耐え抜くための努力、またアイティメディアに寄せる新たなビジョンを語ってもらおうと思う。

(最終回へつづく)

Comments