テックファーム株式会社社長 筒井雄一朗 最終回「経営哲学と意思決定」(全4回) 受託開発という長期間の開発期間に耐えうる財務力が必要であった開始当初は、少数精鋭による高い収益力を「余力」に、3ヶ月間はとにかく持ちこたえられるようなキャッシュフローを目標に事業を進めた。 また社員数が50名を超え、拡大路線へと転換しさらなる成長を図った2001年には、設立当初に培った収益力、ドコモ、電通、インテックなどの資本提携による強固な顧客関係、新事業の実績などが「余力」となった。 そして、拡大路線を図った直後に訪れた9.11、ITバブルの崩壊、SARS、金融への公的資金投入などが原因となるIT不況の危機に際しても、コンサルや保守運用での安定収入で確保した収益が「余力」となり、方向性を曲げてでも売上・利益を追求することより、最低限の利益を確保しつつ、不況時に社内の新たな力を蓄えること、つまり営業担当社員の採用開始、R&Dへの取り組み、社員育成の強化を行うことができた。 また、このときに現在では想像できないが、転職市場で採用しやすかったエンジニアを積極採用できたことがその後の事業に対して大きな「余力」になったことはいうまでもない。 その後も自己資本率の高さ、金融機関の信用力、エンジニア入社3年目クラスの社員の成長などの「余力」を活かした経営により、2006年のライブドア事件に象徴されるIT業界のコンプライアンス、セキュリティに関する問題に関してもそれまでの実績や信用を活かして更なる事業拡大へと繋げることに成功した。 このようにテックファームの事業開始以来、筒井は常に社内の「余力・余裕」を分析し、それを元にさまざまな経営方針を決定してきたのだ。 しかし「今まで嬉しかったことは何ですか?」の問いに筒井はしばらく考えてこういった。 「上場を進める準備の過程で、それまでには考えもしなかったさまざまな制約を社員に強いらなければならなかったのですが、先日ある社員がふと、『筒井さん、最近上場してよかったと感じています』といってくれたのがとても嬉しかったですね。」 人・モノ・金・時間。そのときに応じて経営のリソースは変化してきたとはいえ、テックファームにとって設立当初から変わらなかったのは、成長を分かち合いながら喜べる「人財」と「環境」。 それが常に分析・判断を繰り返す中で筒井が培ってきた最大の「余力」だったのではないだろうか、そんな印象を受けた。 (了) |