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1-4丸山力

元日本IBM取締役副社長 丸山力さん 最終回 「次代の経営者へのメッセージ」(全4回)

「次代の会インタビューコーナー」 4回にわたってお送りした元日本IBM取締役副社長 丸山 力(つとむ)さんのインタビューもついに最終回。
丸山さんは1990年に世に出された、IBMのパソコンを特別なハードを使わずに日本語環境で使用できるOS「DOS/V」の開発から営業まで一貫して関わったいわば「DOS/V生みの親」。



今日は次代の経営者に送るメッセージをお伺いしました。


Q 先生、いよいよこのインタビューも最終回です。これまでのお話も大変興味深く、勉強させて頂きましたが、次代の会に参加されている若い経営者の方へのメッセージを中心にお話をお聞かせください。

A そうですね。これからの経営者の方は世界を舞台にして活躍することも踏まえ、前回お話した英語力の他に「マーケティング」、「ファイナンス 財務」そして「リーガル 法律」、この3つが技術と同じくらい重要だという認識にたって活動すべきだと思います。

 日本では過去の成功体験により、「いいものをつくったから売れるだろう」とよく考えがちですが、今の市場は、商品・サービスの売れる仕組みを真剣に調査・検討するという「マーケティング」に力を入れ、そして戦略的な営業をしないで売れるほど甘くはありません。

 ベンチャー企業の場合、ベンチャーキャピタルがその会社の事業シーズを非常に有望だと認めれば、「マーケティング」をも支援してくれる場合もあります。しかし、そうでない場合は自分でやらなければなりません。
 ファイナンスに関してはキャッシュフローをしっかり理解し、投資判断をすることです。複利計算でうまく利益が出る仕組みを考え、財務の指標によってプロジェクトのGO/NO-GOを決定するのが基本だと思います。
 リーガルに関しては、日本とアメリカでは法律の条文に違いがあり、また日本は成文法がベース、アメリカは判例法がベースと法律の作られ方やそれぞれの文化や歴史的背景に違いもありますが、法律的な作文におけるロジカルな考え方は共通です。経営者の方がしっかりとその考え方を理解し、契約や知財などを自身で確認し、思わぬ失敗を未然に防ぐ必要があると思います。
一般のビジネスにおいても新しいやり方を考え出した場合、常に法律全般に照らし合わせ問題は無いかの検証をしておく必要があります。
これからの時代、海外企業との協調や競争によるビジネスが多くなると思います。その時、日本企業は常に法律的視点で自身の立ち位置を確認、防御しておかないと、いざというときに一方的に押されてしまうのではないかと危機感を感じています。

Q 知財や特許などに関する日米企業同士の裁判では100%日本の企業が負けるということは、以前に知人から聞いたことがあります。
前回に引き続き、やはり海外企業との競争をこれからの経営者の方は念頭においていかなければならない時代になっているということなのですね。


A 日本企業は、競争だけでなく協調も考えながら海外企業と付き合う戦略を作る必要があります。その時に、先ず今の世界の環境をどう捉えるかが問題になります。
世界の環境を表現する言葉で最もホピュラーなのはグローバリゼションでしょう。しかしこの言葉はあまり各国の意図、ダナミックスを表現していません。トーマス・フリードマンの「フラット化する世界」はかなりそれを表現していると言えます。地政学という学問があります。昔は国家を組織体と考え、「生存圏」を確保する権利があると資源を求めて他国を併合していった際の考えの根源だといわれ、印象悪く捉えられがちな学問なのですが、現在は経済の要素を加えた地政学が議論されています。これからは世界の環境を地政学的に理解し、企業もそれにうまく合わせた経営をしてゆかなければならないと思っています。

「フラット化する世界」では10個のフラット化の要因を説明しておりますが、私は今の世界の経済のダイナミックスを読み解く鍵は「光ファイバー」「為替」「石油」にあると考えています。

他にもさまざまな要素がありますが、先ずはこの3つがどう絡んで動いていくかということを念頭において自分の会社なりビジネスなりを判断してゆかなければ、世界の経済の流れに棹をさすことになるかと思います。
 「光ファイバー」はその威力を常に念頭に置いてビジネスを考えていただきたいと思っております。世界的なITバブルの崩壊が世界的な格安光ファイバー通信基盤を残しました。その結果、情報の瞬時の送受がただ同然になり、例えば世界中からインドへITサービスのアウトソースがされております。
 「為替」は言うまでもないと思いますが、上記インドへのITのアウトソーシングも、世界の工場と言われる中国も共に先進国との間の為替の格差により成り立っているとも言えます。
 昨今、「石油」の高騰によって世界の経済が揺れています。ブッシュ大統領は2006年2月に“America is addicted to oil”と言っておりますが、日本も毎日の生活に石油が体内脂肪のように隅々まで浸透しています。石油を国内で直接使うガソリン、燃料だけでなく、石油化学製品、はてはフードマイルと呼ばれる世界各国から日本への食料の移送にまで石油価格は影響しています。しかしこれは石油がこれまで他のエネルギーに較べ格安であったために出来上がった経済の仕組みです。世界の石油の産出量がピークになる「ピークオイル」が現実のものになりつつある今、石油価格は高い物だという仮定でビジネスを組み直す必要があります。

 以上、世界の経済のダイナミックを読み解く鍵を説明しましたが、もちろん読み解いただけではビジネスにはなりません。それらにどう対応するかの戦略が必要です。

 ダイナミックに環境が変化し、同時に消費者の嗜好も変化、多様化している中でマーケティング手法も消費者の変化を取り込んだものになっています。しかし基本的な勝利の方程式はそんなに変化してはいません。世界の企業の多くが使っているいくつかの例を挙げますと、① スケールメリットを生かす、② 為替の格差を利用する、③ 情報システムによる最適化を図る、④ 経済におけるエコ・システム(参加者の共存共栄システム)を構築する、⑤ 先行逃げ切りを図る、⑥ キラーアプリケーションを提供する、などがあります。これらは皆さんには当たり前と感じられるかも知れません。しかしこれらを徹底的に追求することで、多くの企業は差別化ビジネスに成功しております。
 特にネット上で成功している会社は多くの場合これらの勝利の方程式を複数備えたビジネスモデルを構築しています。

 例としてネット企業の代表格Amazonのビジネスモデルを詳しく見てみましょう。
Amazonはネットによる書籍販売から始まった事はみなさんご存じだと思います。 しかし今のAmazonはウェブ・サービスのインターフェースを広く一般に提供し、それによって大きな収益を得るシステムを構築しているのです。世界中で5000万人以上の人々がAmazon.comに登録して商品を購買しています。そこには何10万の人々が出店しており、更に何10万のウェブサイトからリンクが張られ、それらの活動を支援するため20万を超えるウェブプログラマーも登録されています。消費者が商品を購入する度に、それがAmazonに出展している他の会社のビジネスであっても、クレジットカードで決済を行い、Amazonにチャリンチャリンとお金が落ちる仕組みです。つまりAmazonはネットによる書籍販売で「先行」し、5000万人以上の登録者という「スケールメリット」を最大限に活用し、ウェブ・サービスのインターフェースを軸に壮大な「エコ・システム」を作り上げているのです。

 先週触れましたように、今の日本企業の課題は、グローバル化、BRICsの台頭、そして最近では石油価格の高騰などの環境変化に対応したビジネスモデルへ、いかに転換できるかにあるのです。
既存の企業には転換を阻む数多くの制度を含むしがらみが存在します。しかし、しがらみが重くとも後戻りはできません。また見方によっては新興の企業はしがらみが無く、自由に羽ばたけるとも言えます。各界の経営者の方々、また目指す方々が、今の日本の地政学的な環境をはっきりと認識し、大胆な次の一手を打って欲しいと思います。

Q なるほど、日本の企業が大きな意味での転換期に来ているわけですね。
世界的な見地を俯瞰しながら、新しい経営者も日本的なしがらみや慣習を乗り越えて自由に羽ばたけるチャンスであるという言葉は、グローバルな現代社会での日本の経営者に対する心強い応援のメッセージですね。
とても勉強になりました。また時間を見つけてこのコーナーでお話をお伺いできればと思います。よろしくお願い致します。ありがとうございました。


A はい、ありがとうございました。

  (完)
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