元日本IBM取締役副社長 丸山力さん 第3回 「日本企業の課題」(全4回)

「次代の会インタビューコーナー」 第3回目も、前回に引き続き元日本IBM取締役副社長 丸山 力(つとむ)さんにお話をお伺いしました。
丸山さんは1990年に世に出された、IBMのパソコンを特別なハードを使わずに日本語環境で使用できるOS「DOS/V」の開発から営業まで一貫して関わったいわば「DOS/V生みの親」。
今日は日本企業の課題に関してお話をお伺いしました。


Q 先生、前回まではDOS/Vと液晶の開発と営業にいたるまでのエピソードや苦労話などを聞かせて頂きました。前回のお話にもありましたが、今日は日本企業の課題に関してお考えを聞かせてください。

A 今の日本企業の課題はグローバル化、BRICsの台頭、そして最近では石油価格の高騰などの環境変化に対応したビジネスモデルへ、いかに転換できるかにあると思います。今日はそれを妨げていると思われる日本人の英会話力についてお話します

 日本の企業のグローバル化の遅れの原因の一つに日本人の英会話力の低さがよく挙げられます。この点には異論も多いのですが、私はその通りだと思っています。色々な商品をグローバル展開する時に、勿論商品そのものに競争力があることは有利ですが、それらの商品を流すまでの仕組み作り・ルール作りには会話力が重要です。この場合、的を得た会話ができるためのビジネス地域の背景(文化)の理解も含まれます。
ネット関連産業がグローバルに展開しようとする場合、自分の意図をネット経由で直に他国の人に伝える必要がある場合にも語学力が基本となります。このような議論をすると必ず、「英会話力はそんなに強くなくても、自分がしっかりした考えを持ってさえいれば相手は聞いてくれる」と仰る方々がいます。確かにその方々はそのやり方でこれまで成功しておられます。
しかしその成功の多くは、日本の経済が強く、「もの」や「技術」そのものが説得力を持った故ではなかったかと思います。今やその勝利の方程式はBRICsに移っています。つまり今の日本は、私たちの商品やサービスの価値を知らしめ、そして自身の望むビジネスのルールを勝ち取るために、自らの言葉で世界の人々を納得させる必要がある時代になっているのです。

Q なるほど、やはり原点は海外とのコミュニケーションだということですね。どうしたら英語が上達するか、それはずっと日本では課題とされてきたことだと思いますが。

A 私はアメリカでの仕事の経験を通じて長く「英語はヒアリングだ」とまわりに言ってきました。「相手の言うことが100%理解できればイエスとノーだけで会話を2時間持たせることもできる。」とうそぶいてもいました。しかしその「ヒアリング」を習得する事が日本人には大変なのですね。
ネットで調べると、日本語と英語の発音では周波数帯域に違いがあるらしいのです。日本語は1500ヘルツ以下の周波数に収まっており、英語は1500ヘルツ以上の周波数を多く使う言葉だそうです。しかもある周波数帯域を聞き取れるかどうかは10才頃に決まってしまうそうです。日本語環境で10才まで生活していると1500ヘルツ以上の音を聞き取る神経が縮退し、代わりに1500ヘルツまでの音に対してはアメリカ人以上に繊細な聞き分けができるとのことです。
私自身この説に近い経験をしています。私は会社に入った25才から英会話を始めた典型的な日本人なのですね。会社勤めの33年間、英語を話す機会は人並み以上にありました。特に最後のほうの6年余りは毎月アメリカで会議に参加していたのです。 耳慣らしのために日本では毎日CNNを聞いていましたが、それでも渡米して最初の2日は英語を聞きづらいのですね。3日目からは1500ヘルツ以上の周波数の音を聞き分ける神経が芽生えたように英語が聞き取れるようになりました。しかしその芽生えた神経も成田に着くと10分で無くなってしまうのです。

 残念なことに、この説では10才までに英語圏で過ごした経験の無い多くの日本人にとって英会話能力を向上する方法が無いと言っています。
 このままでは諦めきれず、ある週末にいい方法はないかと5時間位ネットを検索いたしました。いらしたのですね、10才までに1500ヘルツ以上の音を聞き取る神経ができていない日本人でも「英語のヒアリング能力」を向上させる方法を編み出した方が。
その方によると「英語のヒアリングは正しいスピーキングができると可能となる」のだそうです。人間は自分で発音できるものを雑音ではなく、言葉として理解するのだ、という説です。
早速その方を訪問して私の「発音矯正」をやって戴きました。1日だけだったので、私のヒアリングがどのくらい向上したかは分かりませんが、その方の理論は正しそうには感じました。
 その方と話しましたが、英会話学校は多くありますが、日本人に対して英語のネイティブに近い発音を指導できる先生は非常に少ないそうです。という事はネイティブな発音を求めている人数が少ないということになります。日本の多くの人はネイティブな発音レベルまでは求めず、旅行に楽しく行ける位の英会話を求めているのかも知れません。そして言い換えれば日本ではネイティブな発音を必要とするビジネスの場面が非常に少ない、またはネイティブな発音を必要とする場面を作りたがらないのでは、ということにもなります。

 私はグローバル化した世界で日本のビジネスが存在感を出すためには、ネイティブな発音ができる人財が数多く必要だと思っています。そのためにはネイティブな発音を指導できる方々が少なくとも3000人くらいは出てきて、日本人が10歳すぎてもネイティブな英語の発音が習得でき、その結果英語のヒアリングも習得できるという環境を作るべきだと思っています。できれば私自身「ヒアリングはスピーキング」という説を検証し、それをビジネスとして手頃な価格で展開したい、とさえ思っています(笑)。
今私が教えている学生とも話すのですが、今の発音矯正の授業料では学生にとっては高額過ぎて手がでません。ということは外資系の会社の社員とか余程裕福な人しか行けていないのではと想像しています。

Q  うーん、英語の力というのはやはり大きいですねえ。その先生の発音矯正クラス、私も取ってみたいです。
ところで先生が前回「緻密な考え方と手先の器用さ、そして為替の安さ」が強みであり、モノがものをいう「無声ビジネス」によって今まで日本が成功していて、現在は中国やインドが成功しているモデルだとおっしゃっていましたが、今後日本も世界市場で発展する為には英語力をつけた「有声ビジネス」が必要となるのですね。その必要性がより深く実感をもって伝わってきました。

先生、あっという間に来週は最終回です。「有声ビジネス」の成功に必要なその他の要素に関してもお話を聞かせてください。よろしくお願いします。

A はい、よろしくお願いします。
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